ジョニー・ウィンター〜老白人ブルーズマンの気骨を見た

少し前の話になるが、僕は4月13日にウィーンを出発して東京へ向かった。手には一枚のチケットを握りしめていた。ジョニー・ウィンター東京公演のチケットだ。実際にはネットで購入したので東京に着いてからローソンでチケットを手に入れたのだが、気分としては右手にチケットを握りしめて飛行機に乗った・・・という感じだった。(笑)

4月14日東京着。翌15日お台場に近いZepp Tokyoという会場で、オール・スタンディングのコンサートが行われた。会場前には長蛇の列。500何番目かで入場し前から20列くらいの真ん中に立った。2Fには席もあったのかもしれないが1Fはたしかにオール・スタンディング。その中で一人だけ座っている奴がいた。ジョニー・ウィンターだ。

ジョニー・ウィンターは1944年生まれだから今年2月で67歳になった。生まれつきアルビノ(白子)でやぶにらみ。アルビノは皮膚がんになりやすい虚弱体質だという。だからジョニーはテキサスの強い太陽の下で遊べない弱々しい男の子だったはずだが、15歳でバンドを組みブルーズとロックンロールでギタリストとして頭角を表した。25歳でCBSと契約した頃には「100万ドルのギタリスト」と異名を取った。

その後ジョニーはドラッグ中毒になったが1973年に Still Alive and Well というアルバムで見事に復帰した。70年の秋から71年の夏にかけてたった1年でジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリクス、ジム・モリソンといったカリスマたちがドラッグで亡くなったことを考えると、ジョニーの復帰作のタイトル「まだ生きてるぜ、元気さ!」は、涙無くしては聴けないアルバムだったのだ。 タイトル曲は亡くなった3人への思いを歌っているに違いない。

俺がこいつはクールだと思ってたやつらはみんな6フィート下の土の中
俺を引きずり込もうとするが奴らは出てこようとしない
だから俺は飛び出してベイビーお前も出てこいと言うのさ

(Still Alive and Well)

それから38年。見事に生き残ったジョニーがそのキャリアの中で初めての日本公演を行った。
67歳はブルーズマンとしてはまだまだ行ける年齢かもしれない。だがもともとの虚弱体質が災いしたのか、その老け込みかたは70代後半かとも思わせる。既にYoutubeなどで知ってはいたが最近のジョニーはいつもステージで座っているのだ。昔のようにステージを跳ね回るジョニーはもういない。多くのファンがそのことを受け入れなければならないのだった。

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しかしショーが始まったとたんにそんなことは吹っ飛んでしまった。ジョニーは座ったままだったが、吠えるように歌うしゃがれ声は昔のままの迫力で、独特のリフを聞かせる力強い早弾きも昔のままだった。あっという間に1時間あまりの「昔のまま」のステージを終え、我々50代を過ぎたかつてのロック少年たちは若者たちに混じって踊り叫んだ。夢のような1時間・・・。

新しいことはほとんど無かった。だがそれで良かったと思う。ジョニーも我々もお互いに70年代を生き残ったのだ。そして生き残ったからこそこうしてあいまみえることができた。深い感慨が残った。

思えば日本は震災と原発事故からちょうど1ヶ月を迎えていた。多くのショーが中止に追い込まれていた。震災直後にシンディー・ローパーが日本公演を敢行しファンの喝采を浴びていたが、老齢で体の弱いジョニーが本当に来てくれるのか? mixiのジョニー・ウィンター・コミュは期待と不安の書き込みで埋まっていた。

だがジョニーは本当に来てくれた。シンディのように連帯や援助を訴えることもなく、ただ黙って来日し、いつものようにショーをやり、ただ黙って次のステージへと旅立っていった。これはこれでまた実に渋い。そこに僕は年老いた白人ブルーズマンの気骨を見たような気がした。

以下にyoutubeのリンクを貼っておきますので、よかったら見てください。

1)ジョニーは東京の後いったんアメリカに戻ってからヨーロッパ各地を公演旅行した。5月にはオーストリア公演も行った。僕はまだ東京にいたので行けなかったが誰かがアップしてくれた。
http://www.youtube.com/watch?v=nGq1NfhjUnU

2)ウィーン公演でジョニーはラストでついに立ち上がってプレイした。この映像をアップした人が興奮して「世界初の映像だ」と騒いでいるのが笑える。
http://www.youtube.com/watch?v=qCxcHtxnVoc&feature=related

3)同じオーストリアのリンツでの公演。今時ジョニーBグッドをステージで演奏するのはアマチュアかジョニー・ウィンターくらいではないか。いい意味でのR&R原理主義者なのだろう。(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=y8LIQ8a8npM&feature=related

4)今回見つけたレアものも紹介したい。音だけだがジャニスとジョニーのコラボだ。最近はオーディエンス録音などとも言われるらしいが、要するに隠し録り。だが音もまあまあで歴史的価値のあるものだと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=omlcI1F06tc

5)こちらはジミ・ヘンとのコラボ。ここらを聴くと本当に Still Alive and Well の歌詞がしみてくる。
http://www.youtube.com/watch?v=HqzcVoj4pao&feature=related

ジョニーにはまだまだ元気でいて欲しい。だが近い将来訃報が届くことも分かっている。
僕らはそのことをお互いに知り抜いている。だが同時に信じている。ブルーズが永遠だということを。



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