小田急線各駅飲酒 第13回 祖師ヶ谷大蔵「たかはし」

祖師ヶ谷大蔵は小田急線のなかでは大きな町だ。色々バラエティーに富んだ商店があるので、訪れる機会が多い。しんゆり映画祭野外上映の「日本酒同好会屋台」を出すときは「祖師谷鈴木精肉店」の牛肉コロッケを「あて」に出すため買いに行くし、服の直しを妻が面倒臭がるときは「ママのリフォーム」に行く。また夕方一っ風呂浴びたいときは「そしがや温泉21」に行くし、東日本大震災以前には福島県のアンテナショップがあり、この地下に美味しい蕎麦屋があった。 

こんな祖師ヶ谷大蔵で地元の人々に愛されているやきとり屋が「たかはし」だ。 夕方6時を過ぎると店のなかに「立ち」の行列ができることが多いので、一昨日開店の5時半前に祖師ヶ谷大蔵の駅に降りた。5時28分に店の前に行くとまだ暖簾がかかっておらず、店の中の照明もついていなかった。外に並んでいる人もいなかったので、並びの店をチェックしておこうと50メートルほど通りの奥に歩いていった。2分後くらいに、ふと振り向くと、暖簾がかかったようだったので、店の前に戻っていくと営業は始まっている雰囲気だった。 

「これは、一番乗りだな」と思ってドアを開け驚いた。もう客が7人入り、いつの間に焼いたのかもう焼き鳥(焼きとん)を口にしている客までいたのだ!  「この素早さはなんだ!」と思いながらカウンターの奥の方に座って、「ホッピーと"なか"の焼酎」と頼む。この店ではホッピーと言うと「ホッピーセット」が出てこない。池袋の「ふくろ」もそうだが、別々に頼むシステムだが、こちらの方が焼酎の量が多く良心的だ。

 焼き鳥(焼きとん)は久しぶりなので隣の客を見ると、1本ずつ焼いてもらっている。しばらくホッピーを飲みながら様子を見ていると「しろ」「あぶら」「ナンコツ」と客から声が飛ぶたびにオヤジは1本づつ焼いている。この店は1本づつ焼くシステムだったかなと思い「たん」と「なんこつ」とオーダーすると私のときだけは2本焼き出す。多分常連で知っている客は1本という了解ができているのだろうが、オヤジは私に「2本ですね」と聞くそぶりも見せなかった。 

その後1時間近く70才近くに見えるオヤジの姿を観察していたが、かなりワンマンに焼いているようにも見えた。ある客が「アスパラ」と叫ぶと「まだ野菜は早い」とつぶやき焼かなかったし、4品くらい立て続けにオーダーした客には 2品しか焼かなかった。また、入店して態度の悪い客がいると「タン」とオーダーしても黙って反応すら見せなかった。また「しろ」を塩で頼んだ客には「シロはたれだけ」と客の反応もまたずに「たれ」につけて焼きだした。

 私も最初は「横柄なオヤジだなと」と思っていたが、しばらく見ているうちに、このオヤジのマイペースさには一つ一つ理由があることが感じられてきた。いっぺんに沢山のオーダーをする客を無視するのは、いっぺんに焼いてしまったら、いい状態で焼き鳥を食べてもらえないからだし、野菜は "口直し"食べてもらい肉とのバランスを考えているのだろう。「シロはたれだけ」は味に対する自信だろう。 ただ普通、客商売でそういうことをやっていれば、客が減りそうなものだが、「たかはし」の場合は「味」と「常連に対するコストパフォーマンスの良さ」が店の繁盛を支えている。多分この"頑固オヤジ"を見たくて通う常連もいるのだろう。

段々オヤジがオーケストラの指揮者のように見えてきた」「俺の指揮棒を見ろ」「俺にシンクロしろ」と言っているようだった。だからオヤジの指揮が気に入らない客はこの店に来ないだろうし、今は、オヤジとこの店が好きな客が存在するので、成り立っているのだろう。 

「たかはし」のような地元に密着した居酒屋は、末永く繁盛してほしい。幸い「三代目」と呼ばれる息子も一緒に働いているので3代目の代までは大丈夫だろう。店内でオヤジの写真を撮ろうかとも思ったのだがジロリと睨まれたのでやめた。

320x320_rect_2919050.jpgのサムネール画像

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