小田急線各駅飲酒 第7回 下北沢
下北沢は若者の街だ。南口に降りて南口商店街を歩くと10代、20代の若者たちの人の波に飲み込まれ圧倒的にそれを感じる。居酒屋も"こじゃれた"店が多く、私のようなおじさんに似合う店は少なく、この連載を書き始めたとき、どの店を書くか迷った。
入った瞬間に"当たり"の感触があった。カウンターに常連が3〜4人座り、店主と店員も"ただもの"でない雰囲気を漂わせていた。チェーン店にはない居酒屋の「くすんだ」歴史が店に充満していた。雰囲気は一言で言うと「おやじの巣」。
ホッピーセットをまず注文すると、ジョッキにたっぷりの氷とたっぷりの焼酎が注がれてきた。何をたべようかと壁に貼られたメニューを見ると「つくね」の文字が「私を食べてください」と眼に飛び込んできた。こういうときは、素直にその声に従うことにしている。
「つくね2本たれで」と注文すると「ゆず入りとニラ入りどちらにします?」と聞き返してきた。「?」。もう一度壁に貼られたメニューを見ると確かに両方書かれている。「1本づつというのはいいですか?」と聞くと「いいですよ」との答え。4〜5分待つと、少し大きめのつくねが焼かれて出てきた。
まず「ゆず入り」を食べる。噛むと肉汁のほかに口の中にゆずの香りが広がる。次に「ニラ入り」を。しっかりしたニラの味がつくねとマッチする。この口の中のつくねを冷えたホッピーで胃に流し込む。「ああ!幸せだ!」
入店10分で私はこの店が好きになった。店のなかを見回すと中高年の客たちがみな、幸せそうな顔をして飲んでいる。
よく見ると見知った顔があった。知り合いかなと思ったが違った。写真家の浅井愼平さんだった。同年配の人たちと楽しそうに「小上がり」で飲んでいた。しばらくしてお勘定を頼む。
ホッピーセット+なか2杯、つくね2本、雛皮1本、突き出しで2000円。焼き鳥が大きめなので、気持ち高めだが、まあリーズナブルか。この店とは長いお付き合いになる予感がする。
このほか下北沢には「酒党 安寅」 (しゅとうあんどら)という美味しい店が北口にある。食べ物に合わせたお酒を出すというコンセプトの店なのだが、酒と食べ物に凝っていて、食べ物はとても美味しい。合わせる酒も日本酒だけでなくシェリー酒や泡盛も合わせてくれる。私はこの店の「水茄子のサラダ」がとても好きだが、これを食べるとき酒が進み過ぎる傾向がある。
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