ここは蔵前・江戸通り 肉屋の正直な食堂
ウィーンから冬の東京に到着して5日目。荻大ノート新年会に出かける前に食事に出かけた。
今回の宿泊地は浅草。厩橋(うまやばし)という橋の近くで都営地下鉄の蔵前駅に近い。
隅田川のゆったりとした流れ。係留された屋形船。首都高速とスカイツリーをのぞけば実に風情のある風景だ。
それにしても噂のスカイツリーはまるで旧東ベルリンのテレビ塔を思わせる構造物で、なにやら情報化社会の「ビッグブラザー」を思わせるような、にらみをきかせているような、そんな印象だ。
蔵前には土地カンは全く無いので、適当な食堂を探して歩いた。
まもなくちょっと変わったネーミングの店があったので興味を引かれて入ってみた。
その名は「肉屋の正直な食堂」。入ってみて驚いた。
中はまるで牛丼の吉野やのようなつくり。コの字型に作られた客席に16席がある。
牛丼やと違うのはすべての座席の前にホーットプレートが置かれていること。
そしてもう一つ小さな砂時計が置いてある。
自販機で500円の定食を選んだ。チキンのグリルだ。
フロア担当の若い中国人女性が、たどたどしい日本語で注文を確認し奥へ。
奥にはやはり女性が野菜や肉を切っている。ふたりとも洋食屋のコックのような白い上着と白い帽子。
店内は古いポスターや骨董品で飾ってある。「懐かしい洋食屋」のイメージだ。
やがて注文の品が運ばれてきた。
なんとフライパンにぶつ切りのチキンの生肉ともやしや人参の野菜が積み上げられている。
続いてご飯とみそ汁と小さなサラダがトレーに乗って届けられた。
フロア担当の女性がでっかい胡椒挽きで胡椒を追加してくれる。
そしてホットプレートのスイッチを入れ砂時計をひっくり返してこう言った。
「この砂が全部落ちたら肉をひっくり返してください」
なるほど。すべてがマニュアル化されている。
ふと見ると手元にA4版のカードがあり、注文した料理によって肉をひっくり返すタイミングが書かれていた。
ご飯はお変わり自由。目の前で肉がジュウジュウと焼け始め、野菜から水分が出てよい香りがしてくる。
みそ汁、サラダ、ごはんをつつきながら、目の前で肉が焼けてくるのを待つ時間が不思議と心をいやす。
これはなかなか良いアイデアだなあ、と感心した。
熱々のチキンをほおばりながら「それにしてもこれで500円は安い」と考えた。
そしてはっと気づいた。つまり、ここでは客が調理をやらされている。
そういう意味ではお好み焼きと同じで、自分で焼く、目の前で焼けるスペクタクル感が魅力でもあるのだが、
一方で店にはコックが必要ない。いるのは下ごしらえをする女性とフロア担当の2人だけ。
これでは人件費もかかるまい。
周りを見ると若いカップルや鳶職の男性二人組が「おお」「これは良いなあ」「お変わり自由だ」と喜んでいる。
客に料理をさせて喜ばせるとは!この仕組みを考えだした人は天才かもしれない。
この店は皆さんにもおススメできると思います。
後日この店のホームページを見つけた。フランチャイズで展開中だ。
ホームページのメインのコンテンツはなんとフランチャイズ店オーナーの募集だった。
つまり「客が自分で料理する店」を「自分で出資して稼いでくれるオーナー」に経営させようとしている。
どこまでも人に金を払わせ仕事をさせて売り上げようとする。やはりこれは天才の所業かもしれない。
肉屋の正直な食堂(http://e-808.com/nikuya/)
面白そうな店ですね。ちょっと心惹かれますが、はたして蔵前に行く機会があるかなあ。
考えてみたら、すき焼きや鍋をつつく場合はすべて、焼き具合を見計らって食べるという「セルフメイド」方式なのだから、その応用ですよね。ただし、個別の鍋というのがちょっと…。みんなでわいわいやりながらつつくほうが愉しいと思うのだけれど。
次回はウィーンの街角食堂からのレポートもお願いします!
神保町にもあるそうですよ。
http://e-808.com/nikuya/list.html
このフランチャイズ店、HPを見るとどうやら「ひものや」を展開しているみたいです。
「ひものや」は数年前から渋谷などで成功している居酒屋ですが、
置いてある食材が「干物」ばかりで腐らないし、うまい方法だと思っていました。
今回の「肉屋」も成功するのかもしれません。